今回やってきたのは、島根県の「 奥出雲町サイクリングターミナル 」。
2005年に仁多町と横田町が合併し、奥出雲町となった町にあります。
最寄の出雲空港から南東へ車で50分ほど。
スサノオノミコトが降り立ち、ヤマタノオロチを退治したという神話が残る場所です。
斐伊(ひい)川のそばにある三角屋根のターミナル。
この施設がこれまでのターミナルと違うのは、JR木次(きすき)線の出雲三成駅至近という点。
輪行でアクセスするにはもってこいいのターミナルですよね。
ターミナルを入ると広いロビー。
レセプションもホテル並みにしっかりしており、2階へ上がると吹き抜けを中心に洋室の部屋が並びます。
外から見た三角屋根は、この客室部分だったのですね。
部屋の中は4つのベッドがあって、ゆったりとくつろげそう。
つい先日改装したばかりなので、白い壁が光ります。
大浴場もありますが、部屋にもユニットバスがあるので、いつでも汗を流せます。
支配人の小林幹男さんは、実はプロの料理人。
料理長が支配人の宿なんて、フランス風にいうとオーベルジュじゃないですか!!
ここに宿泊すると、小林さんが腕によりをかけた食事がいただけるということですね!
それではターミナルを出発!
おっとその前に、地元の子どもたちがターミナルのレンタサイクルでスタートしていきました。
「 鬼の舌震(したぶるい) 」 という名所までサイクリングするんだそうです。鬼の舌震についてはのちほど...。
国道432号を少しだけ走ったら、信号を左に曲がって県道25号へ入ります。 特にサイクリングロードはありませんが、車が少なく、走りやすい道。
両側に里山が並ぶ田舎の風景を、のんびり走ります。
アップダウンはかなりありますが、激坂というわけでなく、「走り応えのある道」という表現がピッタリでしょう。 ベテランさんは「物足りない」と感じることはなく、ビギナーさんは達成感を感じるコースだと思います。
さて最初の訪問先が近づいてきました。
県道270号との分かれ道、角におそば屋さんがある場所で右へ曲がります。 すぐに美女原トンネルが現れ、そこを抜けると「鬼の舌震」の看板が見えてきます。
そう!
先に子どもたちがサイクリングで訪ねた、奥出雲町の観光名所です。
国の名勝天然記念物である「 鬼の舌震 」は、渓谷に様々な巨岩、奇岩が横たわる、なんとも迫力ある場所です。
西暦733年に編纂された『出雲国風土記』によると、「玉日女命(たまひめのみこと)を慕ったワニ(実際はサメ)が、夜な夜な斐伊川を上ってきたが、これを嫌った 姫が巨岩で川をせき止め、サメはますます姫を恋い慕った」…という話が「ワニのしたふ」と言われ、それが転じて「鬼の舌震」となったんだそうです。
自転車で宇根駐車場までアプローチしたら、食事などのできる「舌震亭」の前に駐輪し、歩いて行きます。 最初のスポットである玉日姫橋までは400m。
石畳の急坂を下っていくので、ロードバイクのビンディングペダルの人は、クリートカバーがあったほうがいいでしょう。 下からは息を切らして上がってくる人がいます。
7分ほど歩くと、つり橋が見えてきました。これが玉日姫橋。その上に立ち、川上に目をやると…、
ありました、ありました!
ゴロゴロと壁のように横たわる岩、岩、岩!
これは素晴らしい。
1000年以上前から、ここにこうして巨岩があると思うと、ちょっと感動です。
つくづく、自然って偉大ですね〜。
鬼の舌震は、この先2kmほど巨岩が続くのですが、今回はここで引き返します。 実はこのあと、今回のメインイベントが待っているのです!
でも、時間の許す方はこの先も散策してみては?
さらに大きな巨岩が見られるんだそう。
与謝野鉄幹・晶子夫妻も歌に詠んだほどの景色なのですから!
行きに下った道を上り(少し息がゼー、ゼー)、自転車を停めた舌震亭まで戻ります。
舌震亭には、ここの看板娘とも言える87歳のおばあちゃんがいらっしゃいます。その人の名前は山田文子さん。
ここで飲み物やお土産を販売、さらに食堂を経営されています。87歳とは思えないほど、お肌ツヤツヤでお元気!
「ここでいろんな人と会うことが張り合い」という文子さん。おばあちゃんの元気な笑い声を聞くと、こっちまで元気になります。
ぜひ立ち寄った際には、文子さんに一声かけてみてください!
県道25号線を戻り、再び美女原トンネルを通って県道270号線へ出ます。
次に訪れるのは国指定登録文化財の 「 絲原家 」へ。
絲原家の説明をする前に、この地で栄えた「たたら製鉄」のお話をしておきましょう。
その名前からわかるように、このあたりでは昔、製鉄業が盛んでした。 製鉄の際には、空気を送ることが必要ですが、その装置が「たたら」と呼ばれていたことから、「たたら製鉄」の名前がつきました。 この地域を舞台にした映画「もののけ姫」にも、その「たたら場」が登場します。
この地のたたら製鉄業には、御三家と呼ばれる名家が存在したそうです。そのひとつが絲原家。
1636年にたたら製鉄を開業し、1923年まで、なんと280年以上も鉄に息吹を与え続けました。
絲原家は、国登録有形文化財の絲原家旧家、池泉観賞式回遊庭園の出雲流庭園、さまざまな資料が収まる絲原記念館などを見ることができます。
広大な敷地ですので、全部見るには結構時間がかかりそう。でも今回は、時間に追われているので、ちょっと拝見しただけで失礼しました。 庭も旧家もステキで、もっとゆっくりしたかったんですけどね。こちらも紅葉がすばらしいと思います。
[上段・左から順に] |
[下段・左から順に] サイクリストにはおなじみのモリブデン鉱。この地で産出されたものです。 見つけました! 顔入れパネル!ここは映画「絶唱」のロケ地となった場所。私は浅丘ルリ子に。 小林旭に扮してくれたのは、今回の案内役、奥出雲町観光協会の村尾妃登史さんです! |
この日のメインイベントの前に、乗り越えなければならないことがあります。それは、ループ式の道路では日本一を誇る 「 奥出雲おろちループ 」 のヒルクライム!
その名の通り、ヤマタノオロチがとぐろを巻いたような道路なのですが、ループしているということは、当然、上へ上へと昇る…ということです。
「 絲原家 」をあとにし、県道270号を大きく左へ曲がると、国道314号へぶつかります。
この国道が奥出雲おろちループへとつながります。
国道へ出るまでは、正面に船通山(せんつうざん)が見えます。スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治した山です。
ヒルクライムの前に、少し鋭気を養いましょう。
JR出雲坂根駅の目の前に「延命水」と書かれた看板が右手にあります。この看板の下には、天然水の湧き出る場所があるのです。
寿命100年のタヌキも、この延命水を飲んだのだとか。
この水で水分補給をして、いざ!
延命水があった場所からグングン進むと、頭上に赤い橋が見えてきました。
これが三井野(みいの)大橋。奥出雲おろちループの最高地点です。
ヤマタノオロチが火を吹いているのをイメージしているんだそう。
「あ…、あそこまで上るのか…」と思うとうんざりしそうですが、橋の景色がキレイなので脚にも力が入ります。
さぁ、いよいよおろちループへのヒルクライムが始まります。
坂根から三井野原までその距離約6km。
標高差は167m。
日本にループ橋は数あれど、2重ループになっているのはここだけ。
つらいヒルクライムも、日本で唯一の場所を上るとなれば名誉この上なし!
斜度はそれほどありませんが、なんせ距離が長い。
ひと漕ぎひと漕ぎペダルを回せば、いつかは到着するはず…。
そしてとうとう、最初の駐車場に到着!
ここにはおろちループの看板があるので、記念撮影。
周辺の柵には、そろばんの装飾も。
このあたりは、そろばん作りも有名なんです。
最初の駐車場を出たら左手に注目。おろちループの絶景が広がります。
やがて到着するのが「 道の駅・奥出雲おろちループ 」。
食事もでき、お土産も買えます。ここでしばらく休憩。
展望台から見る三井野大橋もキレイですよ。