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デンマーク交通大臣と谷垣禎一JCA会長が会談

 日本の公共交通視察のために来日したピア・オルセン・デュア・デンマーク交通大臣が谷垣禎一JCA会長・自転車活用推進議員連盟会長を表敬訪問し、自転車の活用、政策、文化等について意見を交換した。
会談は去る2014年1月23日、衆議院第一議員会館にて行われ、デンマークからはデュア交通大臣、A・カースティン・ダムスゴー駐日大使が、日本からは谷垣会長、原田義昭自転車活用推進議員連盟副会長、岩城光英事務局長、金子恭之事務局次長、小泉昭男議員連盟PT座長が出席した。
デュア交通大臣は京都から新幹線で東京駅に降り立ち、そこから自転車を駆って議員会館へ移動、交通の状況、東京の風を自ら感じて会談に臨んだ。デンマークは世界有数の自転車先進国、自転車に関する施策・インフラには学ぶことが多く、また日本は2020年東京五輪開催が決定し、自転車を重要な政策と位置づける時期が到来している。両国の自転車の状況、施策等の意見が交換され、それは有意義な会談になった。

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自転車先進国デンマークと日本がともに協力して、自転車文化を創出する願いを確認した。


ピア・オルセン・デュア・デンマーク交通大臣と谷垣禎一JCA会長との会談。終始和やかな雰囲気の中にも活発な意見交換が行われた。

デンマークからはデュア交通大臣、ダムスゴー駐日大使(前列左)が、日本側からは谷垣会長、原田義昭自転車活用推進議員連盟副会長(前列右)、岩城光英事務局長(後列右から3番目)、金子恭之事務局次長(後列右から2番目)、小泉昭男PT座長(後列右)が出席した。

両国の交流を通じて自転車文化の創出を誓う


谷垣会長 ――  デュア交通大臣が日本の交通事情をご視察なされると聞き、とくに自転車のことについてお話をお伺いしたいと思い、このような場を作らせていただきました。自転車政策においては日本よりデンマークの方がはるかに進んでいます。ぜひお教えいただきたいと思います。
数年前から日本も自転車政策を大きく変えようとしています。自転車はどこを走らせるかということについては、日本はむしろ歩道を走らせるという方法をとってきました。だがそれは間違っていると、方針転換をいたしました。また、自転車を地域おこしの手段として活用することも大きなことだと思っています。とくに2020年には東京オリンピックがありますので、それに向かって東京をどのように魅力的な街に作り替えていくのか、その中で自転車を交通手段としてどのように位置づけていくのか、私どもの大きな課題となっています。このような時においでいただいたことは大変ありがたいことで、歓迎の意を表させていただきます。

デュア大臣 ―― このような機会をいただきありがとうございます。自転車にはとても関心を持ち続けてまいりましたし、とても近い考えをお持ちだと思います。日本の交通手段を学ぶということで参りましたが、実際に拝見して、いかに公共交通が機能しているか、交通システムがいかにお互いに機能しているか、本当に驚嘆いたしました。もしここに自転車というものを付け加えられれば、この素晴らしい交通システムはさらに完璧なものになると思います。
自転車に関して我国はいま国家戦略を策定中で、春には出来上がる予定でいます。自転車レーンをさらに増やし、地方のコミュニティに資金をつけて都市居住者だけでなくローカル地域に暮らす人も自転車を利用するようになることを目指しています。また自転車は文化的なもので、生まれた時から身近なものであり、子どもたちが自然と自転車に乗るというようなことを進めていきたいと考えています。
自転車は健康的で環境にも良いものです。みんなもっと自転車に乗るべきものだと思います。日本とデンマークが一緒になって、自転車が人々の生活の中で高い所に置かれるような社会を実現できれば両国にとって大きな前進になると思います。

谷垣会長 ―― ありがとうございます。ところで日本にいらしてお気づきのこと、ご意見をいただけますでしょうか。

デュア大臣 ―― 東京駅から議員会館まで自転車に乗って参ったのですが、気のついたのは歩道の中に歩行者と自転車の走るところが分けてあって、車道に自転車専用レーンがないことです。歩道を自転車が走れば歩行者は自転車を怖いと感じるでしょうし、車道を自転車が走れば同様に自転車は車を怖いと思います。そのために自転車専用レーンが必要だと思います。

谷垣会長 ―― 確かにおっしゃるとおりです。日本では1970年代にモータリゼーションが進んで車が増え、交通事故が急激に多くなりました。その中でも自転車と車の事故が多く、警察が“自転車は歩道を走れ”という法律を作ったわけです。そうこうしているうちに自転車による対人事故が多くなり、今度は“自転車は歩道を走るのは間違っている”となりました。数年前に原則に戻して自転車は車道を走るということに根本の方針が変わりました。ただ、専用レーンがありませんので自転車にとって危険と感じるところがたくさんあります。日本の実情を申しますと、自転車に乗る人も、歩行者も、車を運転する人も“自転車は車道を走る”という認識が徹底されていません。だから歩道を走る人がたくさんいます。従って車道を走る、車道の安全な場所を走るということを位置づける運動が一番大事なことだと思っています。ただ若いお母さんたちが子どもを保育園へ送り迎えするときに自転車を使うことが多いのですが、そうなると現状の状態で車道を走るのは危険な気がします。歩道を走るのもやむを得ない状況にあります。

デュア大臣 ―― 私の6歳になる娘は自転車に乗って学校へ行きます。私も自転車で一緒に行くのですが、車道を走るのが危険な時は歩道を走ります。というのも遠くから通学する子どもたちは自転車で通うのが良いのですが、車が多くて怖いと子供が言うと、それでは車で学校まで送るわと、多くの車が学校の近くに集まってきてますます危険な状態を引き起こします。このような悪循環に陥ってしまうことも大きな課題として解決していかなくてはならないことだと思います。
我国ではスーパーコミュニティ・バイクレーンというものを作っていこうとしています。それは時速30kmで走っていけば信号に止まらずにレーンを走っていける「GREEN WAVE」という自転車用信号システムや、足を休めるためのバイクパークという休憩所を設けるといったコンセプトで出来ています。そうすれば遠いところからでも自転車で通勤することができるようになります。人々が自転車に乗らない理由が見つからないほど、簡単に自転車を利用する環境を整備していきたいと考えています。

小泉昭男議連PT座長 ―― 大変素晴らしい政策であると感じます。
私たち自転車活用推進議員連盟では政府に対して提言を行いました。まずは「自転車政策の担当大臣」を置くこと。法的には「車道の左側通行を徹底」すること。そして自転車保険の義務化を検討することなどです。保険の問題では小学生が自転車に乗っていて歩行者とぶつかり怪我を負わせ、9,520万円もの賠償責任の判決が出ました。日本では保険に入っていない自転車がかなりありますので、これは喫緊の課題でもあります。この他にも、自転車レーン及び自転車ネットワーク路線の速やかな選定・整備、安全運転教育制度と指導者育成システムの構築など、また東京オリンピック・パラリンピックに向けた準備のための緊急提言なども政府に出しました。

デュア大臣 ―― とても素晴らしい提言だと感じております。
自転車はデンマーク人のDNAと言えるもので、DNAで有り続けるためにはもっと研ぎ澄ましていくことが必要です。デンマークにも「自転車協会」というものがあり、私はそこからいつも“もっとやれ”と圧力を受けています。この春に出来上がる国家プログラムは自転車協会の提言も反映しています。いろいろな分析、自転車の振興に関わるさまざまな取り組みは経験に基づいて作られたプログラムですので、参考にしていただけたらと思います。デンマーク自転車協会は自転車レーンやインフラということだけでなく、むしろデンマークの自転車文化の振興に焦点を当てた活動をしています。彼らは良いアイディアを持っていますので、なにかお役に立つことができると思います。
もしひとつ提言をさせていただくならば、ぜひデンマーク自転車協会を日本に招いていただいて、ご一緒に自転車文化創出のために歩を進めることができればと思います。

谷垣会長 ―― ぜひ自転車協会の方々に日本へ来ていただいて、良い意見をお聞かせ願いたいと思います。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

 

[豆知識] デンマーク自転車事情
自転車先進国・デンマークは坂のない平坦な地形のため、人々は多少の距離の移動ならば自転車を利用します。首都コペンハーゲンでは住民の40%が通勤や通学で自転車を使っており、都市部に住んでいる人と通勤している人を合わせるとその数は60%にもなります。日本と大きく違うのはインフラの整備。自転車専用レーンはコペンハーゲン市だけで300km超(2010年現在)。電車や地下鉄などの公共機関でも、車内に自転車を持ち込むことができ、多くの駅ではそのためにエレベーターが設置されています。
現在は都市部以外に住んでいる人に自転車通勤を広めることを目標にしています。過去4年間に4000万クローネの投資を行い、人々の居住区域を把握したり、どこへ自転車通勤をしているかと調査したり、地域コミュニティとともに自転車専用レーンを整備することを行っています。「GREEN WAVE」という時速30kmで走行すると止まらなくて済む自転車用信号の設置、途中足を休めるバイクパークの整備に力を傾注し、人々が自転車に乗らない理由が見つからないほど、遠距離の人でも簡単に自転車を利用できる環境作りを推進しています。
デンマークでも街中の違法駐輪は日本と同じくらい頭の痛い問題です。そこで迷惑な放置自転車対策としてコペンハーゲン市は「自転車バトラー」というサービスを行っています。
市に雇われた「バトラー(butler=執事の意)」は、街の放置自転車を見つけると近くにある無料の公共駐輪場に運びます。ユニークなのは、この際に放置された自転車に空気を入れたり、チェーンに給油したりしてメンテナンス作業を行うということ。移動した上にメンテナンスまでしてくれるこのサービス、かえって厚かましい違法駐輪が増えるのではないかと思うかもしれませんが、自転車バトラーサービス導入後、なんと以前より違法駐輪の数が減少したといいます。自転車を大切に扱うことで、人々にも同じ気持ちが伝わるのかもしれません。ちょっと幸せにしてくれるこの制度は、市民に大変好評です。

東京駅から議員会館まで日本サイクリング協会・北川常夫常務理事、小林博事務局次長、山口文知企画推進室長が先導役を務めた。

デュア交通大臣は鮮やかなウエアに身を包み、ダムスゴー駐日大使とともに寒風の中、東京駅から議員会館まで自転車を走らせた。


ピア・オルセン・デュアデンマーク交通大臣
1971年11月30日生まれ。2007年11月13日、北シェラン大選挙区よりデンマーク社会国民党国会議員として選出。2011年10月~2013年8月9日貿易投資大臣。2013年8月9日より交通大臣